焦っていた。
ヘアショーにも出たかったし、撮影会にも参加したかった。
スタイリストデビューより何より、
クリエイティブな仕事がしたかった。
美容学校時代には、やっていたのだ。
同級生をモデルにして、作品をつくっていたのだ。
シャンプーは一番で受かった。
ただ、ワインディングが苦手だった。
そもそもこんな技術、お客さまに使うのだろうか。
そんな疑問が、若林の手を止めるのだった。
ある日、若林は我慢できなくなって先輩に直訴した。
「作品、つくりたいんですけど」
先輩は答えた。
「おぅ、そうか。やってみるか」
先輩は笑顔だった。ただ、若林は与えられたテーマに落胆した。
パーマスタイル。
パーマなんて、いま求めるお客さんなんかいるのか。
それよりカットだ。ショートボブ。
だけど先輩は許さなかった。
「パーマはテクスチャーなんだ。デザインの基礎が学べる」
意味がわからなかった。テクスチャーって、素材のことじゃないのか。
パーマはデザインだ。素材じゃない。
当時はたしかに、そう考えていた。
ワインディングの練習は、決まってオールパーパスだった。
全頭巻き、60本以上。時間は20分以内。
美容学校と同じことを、なぜ社会に出てからもやるのか。
それは基礎だからだ。ペーパーとゴム。指先とロッド。薬液。
その後に学ぶどんなバリエーションでも、
ベースは同じだった。ペーパーとゴム。指先とロッド。薬液。
先輩に命じられるまま、パーマスタイルの作品をつくってみた。
その過程でわかったのだ。
基礎ができていないと、デザインにならない。
表現したいイメージはあった。
だけどそれをかたちにできないのだ。
若林のそんな姿を見ているときも、先輩は笑顔だった。
「食パンなんだよ」
先輩は言ったのだった。
あんパンやピザパンのような個性あるパンになるためにも、
美容師はまず「食パン」を磨かなければならない。
プレーンな「食パン」だからこそ時代の気分を取り入れ、
流行のエッセンスを自由自在に組み込んだヘアスタイルを創造できる。
自分らしさを表現できる。
そのベースを今、つくりあげるんだよ、と。
若林は今、新人教育を担当している。
もちろん今日も「食パン」を育てている。
しかもただの「食パン」ではない。クオリティの高い「食パン」である。





